タイトルの“替え玉”とはラーメンの“替え麺”のことであります。決して“本物とすりかわった偽物”の意味ではありません(冒頭からの注釈で失礼)。
宮さまといえば、ご存知皇族の敬称でありますが、先日の読売新聞に“故高円宮さま 思い出各地に”というコラムがありました。著者は“九州ラーメン物語”の原達郎氏、同紙のシリーズコラム“ラーメン人模様”の第二話であります。
コラムには、国民のスポーツをこよなく愛された高円宮憲仁親王殿下はとても庶民的なご一面をお持ちで、つとにラーメンを好まれていた云々と書かれていましたが、その中に実は、僕のTラーメンも含まれていました。
以下同コラムを引用させていただきます。
~(前文略:2002年9月24日午後7時ごろ、高円宮さまの側近の方から本店へ電話があり)「今から宴席へラーメンの出張料理ができないものでしょうか」との相談だった。社長の香月均史さんが「技術的に不可能です」と答えたところ、「それでは伺います」との返事だった。そして、高円宮さまは、店を閉めた10時ごろ、お見えになった。
同店初代の故・香月昇さんが、創業時の1953年(昭和28年)ごろ作っていた味を復元した「昔ラーメン」を食べられ、「替え玉を」と所望された。しかし、失礼になってはいけないと思い、新たに1杯つくって差し上げたところ、これも見事に食べられた。
香月さんが「お口に合いましたでしょうか」と尋ねたところ、「本場の豚骨ラーメンは、本当においしゅうございました」とのお答え。
香月さんは、高円宮さまが久留米は豚骨ラーメン発祥の地ということをご存じだったことに、深く感激したという。~
以上引用。
僕は、皇族、それも皇位継承権を有される高円宮さまにご来店いただき、お褒めのお言葉を賜ったことは大変有り難く思いました。
しかしその時は、この事が町中でここまで噂の的になるとは、思いも寄らないことでした。その後、会う人毎にその日の詳細をよく訊ねられます。この際、この場をお借りして原氏のコラムにも書かれなかったことを少々お伝えしましょう。
側近の方から、突然(ホントに突然)本店に電話をいただいたその時、奇しくもその本店の二階会議室で、僕たちは店長会議の真っ最中でした。そのときのやり取り…「天皇陛下の身内ん人の家来さんから電話げなばい」「そら皇族の側近からの電話ち言うったい。ばってんそら本当や?」「タカマドノミヤデンカち言わっしゃった」「そら本者や?」「どうもホンナモンのごたるよ」そんな店長たちのやり取りを聞いていた僕は「ドキッ」としました。
高円宮憲仁親王殿下といえば今日、久留米市野球場で開催された「天皇杯全日本軟式野球大会」ご出席のために久留米に来られたということを、たまたま聞いていたからです。僕はすぐにその関係者に連絡をとりました。間違いありませんでした。「本物」でした。
瞬間、店長会議の議題は「タカマドノミヤデンカのラーメン」という緊急議題に差し替えられました。
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第五十三話 宮さまの替え玉(上)
2013年4月13日 土曜日第五十二話 雑学ノススメ
2013年4月13日 土曜日 僕の本棚には、あらゆるジャンルの本があります。ラーメン関係の本は勿論のこと、歴史小説から、映画・釣り・デザイン・経営・天文・心霊・音楽・旧日本陸海軍・タイ料理・経済・動物学・銃器・六法全書・宇宙人・ハーブ・拉致問題・園芸・ロシア原潜・久留米城下古地図・エロ本等々…、本の数だけのジャンルがありそうです。
僕のこの「本の無節操な蒐集乱読癖」は、成人後社会人になってから始まりました。社会に出て「本を読め」と強制する先生がいなくなると、なぜか無性に本が読みたくなり、知識欲が頭をもたげ始めたのであります(アマノジャクです。学生さんはマネしないでね)。 遅ればせながら芽生えた知識欲は今でも旺盛で、いつしか僕は友人や会社の部下から「雑学博士」の称号をいただくようになりました。
しかし、所詮雑学は雑学なのでしょう。友人たちからは「そげな本がラーメン屋のお前に何の役に立つとや?」と聞かれることがあります。以下、ある日の友人との問答。
僕:「たとえば、お前の一家が大草原の一軒家に住んどるち思ってん(~と思ってみて)。ある日どっかの国の工作員がお前の家族を拉致しようと家を包囲したち思ってん。相手は3人、しかもマッチョ。さらに手には刃渡り40cmのナイフを持っとるち思ってん。ついでにそれはラブレスのカスタムナイフち思ってん」
友人:「『ち思ってん』はもういい。それでその『ラブレス』ちゃ何?」
僕:「ブランドもんたい。このナイフがまた、よう切れるったい。そんな奴ら相手に、お前は奥さんと幼い娘を守るため一人で戦わにゃイカン。それも素手で…。どげん?えずかろ(どうだ?怖いだろ)」
友人:「う、う…」
僕:「そりゃボブサップでちゃ叶わんばい。ばんてん、お前にもいっちょだけ(一つだけ)戦う方法があるったい」
友人:「ほう」
僕:「実はにゃ、お前の手元には何と、今日メーカーから届いたばかりの銃があるったい!それもベレッタM9たい。『ダイハード』でいつもブルースウイルスが持っとるアノ拳銃たい。もう勝ったも同然」
友人:「ふう」
僕:「ところがたい、それが問題たい。その銃は『メーカーのキット販売』やったもんやから、分解状態で箱に入っとるったい。もう工作員は今にもドアを蹴破ろうとしとる。素早く銃を組み立てて応戦せにゃイカンお前には、いかんせん銃の知識がない。嗚呼、万事休す!お前と家族の運命やいかに!」
友人:「くそっ」
僕:「そこで俺やったら、ベレッタを手際よく組み立て、実弾を詰めたマガジンを素早く装填、スライドを引き初弾を送り込む。あとは安全装置を解除してトリガーを引くだけたい。どげんや?雑学も必要やろ?」
友人:「なんかその話ハラ立つ。そしてムリがあるばい。第一、日本で本物のベレッタとか買えんやろ」
僕:「よしわかった。じゃぁ、お前と家族が小さな無人島に漂着したち思ってん」
友人:「大草原の一軒家から無人島かよ」
僕:「そこに、今まさに巨大な津波が押し寄せようとしよる!」
友人:「工作員の次は津波かよ」
僕:「まあ聞けやん。お前たちは島を脱出するにもイカダすらない」
友人:「…」
僕:「しかし!浜辺には、なぜか米軍戦闘機F16ファイティングファルコンが乗り捨ててあった!」
友人:「いいかげんにせんか!」
第五十一話 もうひとつのラーメンフェスタ
2013年4月13日 土曜日 先月(11月15~16日)開催された皆様ご存知のラーメンフェスタ。
「ラーメンイベントとしては全国最大規模」と言われるこのフェスタも今年で五回目となりました。
今回は、例年の広大な『百年公園』から、街のド真ん中の『六角堂広場』に会場を変更しながらも、二日間で延べ十万人(会場五万・周辺商業地区五万)の方にご来場いただきました。ありがとうございました。
さて、このラーメン大イベントの裏で、実は同じ日にもうひとつのラーメンイベントが市内で開催されたのです。場所は久留米市立南小学校体育館、企画運営は五年生全員。そう、三年前のこのコラムで取り上げた小学校の、全国でも珍しいラーメン学習の発表会です。
今年はその発表会に何と!折からテレビロケために来久されていたラーメンチャンピオンの武内伸氏、そしてご存知ガチンコの佐野実氏が現れたのです!
場内騒然。特に佐野氏が会場入り口に姿を現した瞬間、体育館中の子供たち151名が歓声を上げながら一斉に駆け寄り、氏を取り囲みました。まるで金八先生のオープニングシーンそのまま。お母さんたちはここぞとばかりカメラのフラッシュ責め。南小学校体育館は、TV局の取材カメラが回る中、もはや六角堂のイベントステージ以上の盛り上がりを見せながら子供たちのラーメンの学習発表は続きました。4クラスがそれぞれの班に分かれて、いままで学んだ地元久留米のラーメンの研究成果を『ラーメンCM』というかたちで発表し、数日前に家庭科室でつくった(この時のゲストティーチャーは、去年のTVめんたいワイドで『覆面店長』を演じたS和亭の店長)自分たち創作ラーメンをビデオで紹介するという、それはそれは本格的なプログラムでありました。
佐野・武内両氏は一生懸命に発表する子供たちのけなげな姿に感銘したのか、深くうなずくこと暫々。
発表後の、両氏への質問コーナーでは一斉に手が上がり、「テレビではいつもコワイ佐野サンがボクたち相手に苦戦している!」と、子供たちは大喜び。
やがて発表会が終了し、両氏が体育館を出たとき、突然女の子が駆け寄ってきて「ありがとうのことば」を伝え始めました。直立不動でじっと聞き入る両氏の姿には、それこそ今までテレビでも、僕個人との付き合いでも見たことのない、緊張でもない放念でもない、なにか透明なものを感じました。
翌日、両氏は最後の久留米市内ラーメン店数件のTVロケを何とかこなし、そのラストシーンは久留米城跡石垣をバックにコメントして終了。そのラストの両氏のやり取りを、ロケに立ち会った僕の記憶から要約してお伝えすると~
・佐野氏 「久留米はいい街だね。さすがにラーメンの街だね」
・武内氏 「そうですね。小学校までもが(街の産業として認め)ラーメンを授業に取り入れているというのは、全国でも久留米ぐらいじゃないですか?」
・佐野氏 「そうだね。番組の趣旨とは違うけど、今回のロケで一番印象に残ったのは、やっぱり南小学校だね。あの子たちの中から凄いラーメン屋さんが出るといいね。将来楽しみだね」
~といったやり取りでした。
その日の夜、屋台で酔った佐野氏は僕につぶやきました。
「体育館の外で、駆け寄ってきたあの女の子の言葉を聞いてたら、俺、涙出そうになったよ…」と。
第五十話 異星人の見た夢
2013年4月13日 土曜日 汁宮麺次郎(しるのみやめんじろう)
食べ物屋の場合、“職人による手作り”が売りの店と、“オシャレな店構えとイキなサービス”が売りの店がありますが、今の日本にはどちらかに偏った店が多いようです。前者は職人主義の個人店に多く、後者は効率主義の外食企業店に多く見られます。
少なくともこの両者の特性を完全にバランスさせた理想的な食べ物屋を、僕はほとんど見たことがなく、特にラーメン業界に関しては顕著です。
以下は昨夜僕が見た夢。
~優れたラーメン職人の店がありました。
その職人の確かな腕とラーメンの味の良さで、その店はほどなく評判店となり、やがてマスコミの取材も殺到し、いつしかラーメンブームの追い風に乗っていました。
やがて気づいたら、彼のもとに予想外のお金が日々舞い込んでいます。そこで初めて、彼は“経営”という世界に興味を抱き始めました。
ところが、彼は若い時から“職人としての修行”という経験しかなく、“オシャレなコンセプトによる店舗デザインとカッコイイ接客”を考えるという機能は、少なくとも彼のDNAにはプログラムされていませんでした。でも彼の“取り巻きたち”は、彼に早急なる多店舗展開を強く要求しました。そして残念なことに彼は、取り巻きたちが唱える“効率と利益”という呪文にいつの間にやら呪縛され、急激な店舗展開の道を突き進むために、その店のラーメンを“手作りの味”から“画一化された工場の味”にバケさせてしまったのです。
いかんせん職人のDNAしか持たない彼は、その後、“工場の味”による静かなる客離れ現象と、突然肥大化したあまりに自重崩壊しようとしている経営の屋台骨がきしむ音に気づいていませんでした。
さらに、忍び寄るラーメンブーム終焉の足音にも気づかず、マスコミに踊らされ続けているのです。悲しいことに“使い捨て”にされることも知らずに~
と、ここで僕は目が覚めてしまいました。「さてこの夢の続きや如何に」なんて続編を見たいものですが、なんせ夢なものですから(ちなみに夢の“彼”は僕でも僕の関係者でもありませんのでゴカイなく)。
それでは、今夜見る夢を楽しみにもう寝ます。
第四十九話 雨天結構
2013年4月13日 土曜日 今年の久留米の夏は、なんかヘンやったですね。
夏本番である盆前の時期に『九月下旬並み』という肌寒い日が続いたかと思うと、秋の気配を感じるはずの盆過ぎに、いきなり三十六度という酷暑の日が続きました。ツクツクボウシの出番も九月まで順延といったところでしょうか。
そう、『九月まで順延』といったら筑後川花火大会。この西日本一の規模を誇る久留米の花火大会は『久留米・水の祭典』のフィナーレを飾って八月五日に開催される予定でしたが、なんと二回連続の雨天順延となり、三度目の開催予定日は九月十七日という、ツクツクボウシも死に絶えた秋風の吹く日に決まったそうです。しかし、しょんなかですね、雨と花火ほど相性の悪いものはないですから。
どこかの花火大会のように「主催者都合の『雨天決行』で、増水した川の中州に花火師たちが取り残されてヘリで救助された」というのも考え物ですもんね。やっぱし、ときに意地悪でも天の意志には素直に従ったがヨカとです。
『天の意志』といえば、八月四日の水の祭典のときの夕立。この短時間の通り雨で、夜の『一万人の総踊り』が中止(順延ではなく完全中止)になりましたが、僕はこの雨は、天の意地悪じゃなく、灼熱のアスファルトを冷やしてくれた天の『恵み』であり、これこそ『水』の祭典と思ったのですが…。
これは僕の友人から聞いた話。
~突然の夕立で、水の祭典の総踊りが中止になった夕方のこと。激しかった雨もウソのように止み、総踊り会場である明治通りの歩行者天国の交通規制も解除され、出場予定の踊り子さんも見物人も、皆ガッカリしながら家路につき始めた頃、六角堂広場のあたりで十人ほどの浴衣を着た小学生の女の子たちが寄り添うように泣いていたそうです。友人が「どうしたと?」と聞いてみると、女の子たちは小学六年生のなかよしで、「卒業してみんながバラバラになる前の『小学生時代最後の共通の思い出』にと、この総踊りをとても楽しみにしていました。みんなでずっと練習してきたのに、中止になって本当に悲しい」と、お母さんに着せてもらった浴衣の袖を涙で濡らしながら話してくれました。
すると、その話を聞いていたヨッパライのおじさん(僕ではありません)が、「お嬢ちゃんたち、ここで踊らんね。おっちゃんたちが見てやるけん!」やがて半ベソで踊り始めた十人の女の子で、六角堂広場がにわかに小さな総踊り会場になりました。しだいに笑顔になって踊り続ける女の子たちを、道行く人たちも足を止め、優しく眺めていたそうです。
この夜、久留米の町のあちこちで『にわか総踊り会場』が自然発生したそうです。
人の想いというものは、何があっても『雨天結構(決行)』なのですね。
第四十八話 異星人“風見ブタ”参上
2013年4月13日 土曜日 汁宮麺次郎(しるのみやめんじろう)
「おい麺次郎!このところ“異星人”としての話がないではないか!」というお叱りをいただきそうなので、今月は久々に僕の近況報告をいっちょ。
こんな僕にも最近恋人ができました。そのひとの名は“風見(かざみ)”さんといいます。
風見さんは、女性・年齢不詳・出身は何と、僕の星のとなりの“惑星チンタン”です。職業は“星間バイヤー”という、いわゆる“買い付け屋”さん。彼女の星のエネルギー燃料である“清湯(ちんたん:澄んだ)スープ”の買い付けで、銀河の星々を訪ね廻る仕事だそうです。
彼女の容姿は、前から見ると厚さ五ミリくらいのフツーの鉄板にしか見えませんが、横から見るとただのブタ。また、彼女のシャトルは全長わずか六〇センチほどしかなく、地球で言う“矢”の形をしているので、そのシャトルの上に四つ足で乗ってる姿は、遠目では地球の風見鶏に似ています。
彼女はその姿が地球では完璧なカモフラージュと思っているらしく、いつのまにか僕の秘密基地であるTラーメン合川店の時計台の屋根のてっぺんに住み着き、風に向かってクルクル回りながら、地球の清湯スープ探索に専念してるようです。
僕はそんな彼女の美しい姿を下の百葉箱から眺めつつ、幸せな日々を送っていました。
しかし、ある日のことです。突然彼女がウル目で僕に訴えました。
風見さん:「麺次郎さんのウソつき」
僕:「どげんしたと?」(久留米に半年いると異星人も訛ってしまう)
風見さん:「あなたが“ここ(地球)はスープの宝庫だよ。白湯(ぱいたん:とんこつ スープ)も清湯もサウジの油井から吹き出す原油の如く溢れてる”って言ったじゃない」
僕:「うん、そげん言うたばい。ほんで?」
風見さん:「でも何よここは!右を見ても左を見ても、白湯ばっかし。このまま手ぶらで帰星しろっていうの?もう麺次郎さんなんかキライ!」
僕:「ちょ、ちょっと待ってんねやん」
~駆け出そうとする彼女のシッポをつかみながら~
僕:「あのっさい、ここはっさい、クルメっちゅうとこでっさい…」
風見さん:「あなたの言葉、ワケわかんない」
彼女はシッポをふりほどき、そのまま矢型シャトルに飛び乗り、雲の彼方へ飛び去ってしまいました。
この、よくある(?)男女の別れのシーンは、七月の風の強い日のことでした。
その日以来、僕は毎日彼女が消えた雲の彼方を見上げながら、彼女に再び会える日を夢見ています。
第四十七話 大陸麺ロード
2013年4月13日 土曜日 HKこと汁宮麺次郎(しるのみやめんじろう)
最近、久留米のまちもオモシロなってきよります。
それは久留米のど真ん中、六ツ門に、今月二八日にオープンした“六角堂広場”の話。この施設は、約一二〇〇坪の敷地いっぱいに円形の回廊を巡らせた、チョット見ではローマのコロセウムを思わせる多目的広場です。三セクで運営するこの広場、市民のくつろぎの場としての公園の機能に加え、西側には野外ステージ、雨天時には広場を覆うエアーテントなどの設備も備え、イベント会場としての機能も持つ多機能広場でもあります。
そんな広場の一番の目玉はやっぱり東側の商業ゾーン“大陸麺ロード”でありましょう。ここには五つの中国麺料理の店が集い、その腕を競っています。
しかし何ですなぁ、“久留米はとんこつラーメンの発祥地”でありながら、あえてそこを当世流行のご当地ラーメンのテーマパークとせずに、日本のラーメンそのもののルーツである“中国大陸”に敬意を表するかたちで、五大料理文明(四川・広東・上海・北京・台湾)を有する広大な国・中国の本格的な麺類専門店のテーマパークとしたところが、またイキですなぁ。中華料理店が軒を連ねる“中華街”は、すでに長崎・神戸・横浜にありますが、いわゆる中国系の麺類だけを集めたところは、その三大中華街を含め、テーマパークとしても全国に前例はありません。また、この大陸麺ロードという名称も、中華街との混同を避けたいという意味で“中国”また“中華”という名称を使わずに“大陸”としたということですが、遙か昔から終戦直後までの日本人にとって“大陸”といえば中国のことであったという、そのいにしえの歴史ロマンを感じさせる名称でもあるというところも、これまたニクイですばい。
しかし、ばってん、語尾に“ロード”と銘打つ以上は、その意味づけがほしいところです。ここが麺文化の原点を象徴するならば、その原点である“大陸”から外への麺文化の流れをも表現するべきですね。
六ツ門の大陸麺ロードに隣接した“あけぼの商店街”の東南に、“新世界”という終戦直後の姿を留めた寂れた歓楽街があります。ここはまさに、とんこつラーメンが久留米の街に一斉に産声を上げた時代の町並みが、幾筋もの路地でそのまま残されている全国的にも珍しい地区なのです。これは久留米の財産です。たとえばこの地区が、今の姿を残したまま、その廃屋となったあちこちの店に、九州を中心とした全国のラーメン店が入って“ラーメン小路”なんかになれば面白いですよね。
訪れた人はマップを片手に目指すラーメン屋を探しながら路地を探検する。もちろん駄菓子屋さんなんかもあって、そこで寄り道しながらの探検です。なんかワクワクしますね。
もし“新世界”がそんな“日本のラーメン発祥の時代”をテーマにした街になれば、大陸麺ロードという名の中国の麺文化が、“あけぼの商店街”という名の“朝鮮海峡”を渡って“新世界”という九州・日本に伝播し日本のラーメンとして花開いたという壮大なストーリーになります。当然その朝鮮海峡(あけぼの商店街)には大きな文化の交流(人の流れ)ができるでしょう。そのとき初めて、六角堂広場の大陸麺ロードの“ロード”という言葉の意味が完結するのではないでしょうか。
六角堂広場の目的が都心商店街活性化であるならば、定期的なイベントによる集客も必要ですが、僕はこれからのまちおこしは“ハコモノ”だけに頼らず、ダイナミックで壮大なテーマをもって継続と定着をねらうべきだと思っています。
それもハコモノという“点”でなく、地域という“面”(麺?)で興していく時代ではないかと。
第四十六話 異星人・麺次郎の物語・その3
2013年4月13日 土曜日 こんにちは。異星人・汁宮 麺次郎(しるのみや めんじろう)です。
いまのところ、母星からの代替えシャトルが未到着なので地球監察活動ができずにじっとしております。そういうことで今回は、僕の秘密基地であるTラーメン合川校舎周辺の監察報告をさせていただきます。
先日、合川校舎の正門前に“玉葱駅”という、昔懐かしい木造の駅舎が出現しました。その駅舎、本当は“オニオン”という地元久留米の人気ハンバーグ屋さんなのです。実はそこのM社長とTラーメンのK社長は仲がいいらしく、K社長曰く「異業態でも、同じ敷地への出店なら同じコンセプトがよかばい。木造の学校の前には、やっぱし木造の駅やろうもん」と、合川校舎と同じ“古き良き、そして元気だった昭和の三〇年代”をテーマに、K社長自らハンバーグ屋さんの建築デザインのプロデュースを買って出たそうです。
この“玉葱駅”、けっこう凝ってます。
まず、駅(店)の外では、お客さんを出迎えるように懐かしい電話ボックスと赤い郵便ポスト(円柱型のアレ)が並んでいて、ポストの方は、後日郵便屋さんが実際に集配に来てくれる予定だそうです。
そして駅構内(店内)に入ると、突然“キヨスク”型のボックスカウンターがあり、椅子は汽車の座席に使われてたビロード生地。美味しいハンバーグを食べながら天井を見上げると、さりげなくレトロな地元商店の広告看板が貼ってあったり、レジはガラス貼りの“切符売り場”になってたり。そこで勘定をすませたお客さんが出口の“改札口”を抜けると、“プラットホーム(そこも食事ができるテラス)”。その下には、何と昔の国鉄で使われていた本物の朽ちた枕木に横たわる古レール(砂利石も本物)。さらに旧国鉄の列車用信号機までも!
そんな、駅舎のリアルな演出があまりにも出来が良すぎたために、K社長は
「こりゃいかん、調子に乗ってウチのラーメン屋よりオモシロか店が出来っしもた。もうちぃっと手を抜きゃよかった」
と、後悔しきりだったそうですが、何れにしても七五〇坪の敷地に“木造駅舎”と“木造校舎”の建ち並ぶ姿は壮観であります。両社長は、業種業態に関わらず、これからもこんなレトロな建物が周辺に立ち並んでくれると、タイムスリップしたような“昭和のまち”が出来上がり、久留米の新たな観光スポットになるのではと、期待に胸躍らせているようです。
現在、この駅舎や校舎の裏手の広大な土地には、西日本最大級のSC(ショッピングセンター)が建築中で、実際その前面に“昭和のまち”が出現すれば、キラキラした近代的なSCと、しっとりとしたレトロな町並みの“過去と未来”が渾然一体となり、そのコントラストはとても楽しいものになるでしょう。
僕は異星人ながら、そんな変わり種社長たちの夢物語に、何となくワクワクしてます。
第四十五話 異星人・麺次郎の物語・その2
2013年4月13日 土曜日 今回は、前号を読まれた方の「そんな重大な任務を帯びた宇宙人の秘密基地が、ワシントンでもなく、モスクワでもなく、なぜ久留米のラーメン屋なのか?」というご質問にお答えしましょう。
すでにお話しましたが、僕の愛用の羽釜型星間シャトルの燃料は、この地球で言うところの”豚骨スープ”です。もうお判りですね。そう、ここ久留米は豚骨ラーメンのメッカ。シャトル燃料の宝庫なのです。パイタン星人にとって久留米は最大の産油国であり、豚骨スープのアラブ諸国と言ったところです。「それなら、大都会の福岡のほうが豚骨ラーメン屋の数は多いじゃぁないか?そこじゃイカンのか?」とお思いでしょう。
チュッ、チュッ、チュッ(口の前に立てた人差し指を軽く左右に振ってます)甘いネ~。
燃料には”純度”というものがあります。僕の最新型シャトルには、純度九〇%以上の燃料が必要なのです。そりゃ福岡のラーメン屋さんも、ほとんどが豚骨スープです。でも、最近は豚骨に何割かの鶏骨を加えたスープのラーメン屋さんが結構多いようです。食べる分には、これはこれでナカナカいい味なのですが、僕のシャトルの燃料としては、やはり豚骨一〇〇%の久留米のスープが最適なのです。これが、秘密基地に久留米を選んだ理由です。
ところで先日のことですが、長崎へ視察に出向いたところ、長崎市内上空でシャトルがガス欠になってしまいました。僕は焦りながら近くにラーメン屋さんはないかと探しましたが、なかなか見つかりません。あるのはチャンポン屋ばっかし。皆様はチャンポンと言えば豚骨スープとお思いでしょうが、チャンポンの起源は、鶏骨中心の中国の清湯(ちんたん:澄んだ)スープ。最近は豚骨も加えられてますが、その比率はまだまだ。しかし背に腹は代えられず、やむなし豚骨純度の低いチャンポンスープを補給、次の視察地・福岡へ向かいました。
福岡にさえ行けば、まだ高純度の燃料が得られます。僕は異質な燃料を食わされながらあえぐように飛ぶシャトルを、だましだまし操りました。ところが雑餉隈あたりでエンジントラブル発生。近くのラーメン屋さんを素早く見つけると(さすが福岡、すぐ見つかった)緊急着陸しました。さらにラッキーなことに、その店の看板には何と「とんこつ一〇〇%」と書かれているではありませんか!
僕はすかさずその燃料を補給しました。
そころが、その燃料がイカンやったとです。実は、そのスープはインスタントやったとです。食品メーカーから仕入れたペースト状のモノをお湯で溶かしただけの”業務用とんこつスープの素一〇〇%”やったとです。お陰でシャトルは離陸直後に空中分解。僕は炎の中を緊急脱出用の中華鍋型ボートで脱出し、九死に一生を得ました。今、秘密基地の久留米Tラーメン合川校舎の百葉箱の中で、僕はヤケドの養生をしながらパイタン星からの代替えシャトルを、じっと待ってます。
しかし地球はオソロシか星です。
第四十四話 異星人・麺次郎の物語・その1
2013年4月13日 土曜日 はじめまして。僕の名は汁宮麺次郎(しるのみや めんじろう)。
遠い宇宙の彼方から地球監察の特命を帯びて来ました。
僕の星は、地球からはるか十六万光年という仔豚座(地球の星座名とは無関係)あたりのマゼラントーウスナル星雲に属する惑星パイタンという星です。
僕の姿は、地球でいうヒューマノイド型なので、一見地球人とソックリなのですが、やはり環境の異なるこの星で生きていくためにはパイタン星のハイテクが必要です。
そう、僕は常に特殊スーツに身を包み、背には生命維持装置をしょってなければなりません。でもご心配なく、地球人に気づかれないよう、特殊スーツのデザインは、地球のパッピとステテコ型。背中の生命維持装置はマキやシバで包み隠して、背負子(しょいこ)でしょってます。また、その装置とスーツの接続コネクターは股間にあるので、その保護のための超合金カバーは、藍染の前掛け(地球の酒屋の店員さん用腰エプロン)型にしています。そして常時パイタン星との通信は欠かせないので、左手の通信機はラーメンのドンブリ型に、右手のマイクはワリバシ型に改造、アンテナは頭のサムライ型チョンマゲで隠してみました。これで何と!ムフフフ…、ラーメンを食べる格好で異星間通信ができるのです!
どうです、完璧なカモフラージュでしょう。これならニューヨークを歩いていても、久留米の西鉄あたりのストリートミュージシャンの前で女子高生に混じってウンコ座りしていても、ただ“柴刈りのあとにラーメンを食べているフツーの地球人”という感じで、何の違和感もありませんね。やはり出発前、充分に地球を研究した甲斐があったというもんです。ワッハッハ。
BUT、ばってん、僕は地球では少しチビかも知れません、身長四十センチはパイタン星では大人の平均身長なんですが…。
でも、ま、いいか。だって完璧なカモフラージュなんだもん。ワッハッハ。
え?「どこに住んでるの」ですって?
それはナカナカ言えませんが、あなたにだけコソ~っと教えちゃぁたい。
我々の地球秘密基地は、実は、久留米のTラーメン合川校舎の百葉箱の中です。
愛用の宇宙船(というより“最新型惑星間シャトル”といってほしいのですが)は、Tラーメンの厨房でスープ釜のフリをしています。当然このシャトルの燃料は豚骨スープです。
そんなパーフェクトな秘密基地の前で、僕はときおり地球観察のため、銅像のフリをしながら道行く地球人を眺めております。
この星に来てまだ三ヶ月ほどですが、銀河の片隅の小さな星系、太陽系の第三惑星・地球で、劇的な繁殖をとげている生物“人間”の生態が次第に判りかけてきました…