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第十一話 親と子のはなし

 私の少年時代は、母とともに粗暴な父におびえて暮らす日々でした。
おそらく私は父を憎んでいたのでしょう、「大きくなったらそんな父と勝負して、絶対勝ってやる」そんな「負の心」を支えとして成長してきた気がします。
実際、いつのまにか私の図体も、社会的知識も父に勝るときがやってきました。
そして様々な意味で父に勝ってしまいました。
いや、父を打ち負かしてしまったのです。
 しかし、そのとき感じたのは、なぜか深いむなしさと痛烈な後悔の念でした。
幼い頃よりこのときを待ち望んでいたにも係らず。
私が何も言い出せないまま、間もなく父は亡くなりました。
病室のベッドの上で冷たくなってゆく父の身体にしがみついた私は、
声を上げて泣きました。
 
 崇高な精神、それは子が親を超えることを目標に日々精進すること。
 卑しい心、それは子が親に打ち勝とうと、執念の日々を過ごすこと。
 
 父は死してそれを私に教えてくれました。
 

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