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第二十六話 夢を遊ぶ

 昨今の私は、ほぼ毎晩酔っぱらって寝てしまうので、見る夢もワケのわからぬものばかりです。
 何かに追われて必死で逃げながら振り返ると、追いかけているのは「自分」で、前を見ると「自分」の背中が走っている。やがて前も後も大勢の「自分」が走っていて、本当の「自分」がわからなくなっている状況を、空中の「自分」がながめている。ホント、ワケワカランですね。 
 私の少年時代。そう、こんなオヤジにも、純粋な子供のころがあったのです。幼稚園から小学4年生くらいまででしたか、私は寝て見る夢の中で特殊なワザを持っていました。それは夢の中で、「これは夢だ」と気づくのです。そして瞬間的に目を覚ますワザもありました。それは、夢の最中に、「これはあんまり良くない夢ばい、よし目覚めちゃろ」そう決めると、目を閉じて3回グルグルまわって地面に伏せるのです。そして目を開けると、ちゃんと布団の中で目覚めている。そんなワザです。決して「夢の中で見る夢」ではありません。ちゃんとその方法で目覚めて、そのまま学校へ行っていましたから。そんな風に夢をコントロールしているうちに、いつのまにか「夢を遊ぶ」ことを覚えました。半世紀近くの時を経た今でもハッキリ憶えている夢があります。ある夢の中で、これは夢だと思ったとき、「どうせ夢だから絶対に死なんやろう、いっちょビルから飛び降りてみよう」と、当時では珍しい(スーパー丸栄の?)鉄筋コンクリート4階建ての社宅の最上階まで駆け上がり、手すりの上からバンジージャンプの如く両手を広げて宙に飛び出しました。するとアラ不思議、さすが夢。パーマンのように自由に空を飛び回れるのです。それはそれは最高の気分でした。それで調子に乗った私は、毎晩のように夢の中で空を飛ぶことに挑みました。でも、なかなかうまくいきません。あの高いビルが消滅していたり、高い木を見つけて飛び降りても、紙切れのようにヒラヒラと地面に舞い落ちたり。仕方がないので3回まわって目を覚ますしかありませんでした。夢の神様が怒ったのでしょうか「夢で、にやがんな」と。
 やがて私も、成長するに伴って「夢に気づく」こともなくなり「夢を遊ぶ」こともできなくなりました。やはり夢の神様はおわします。しかるに、けがれた大人たちは夢でどんなワルイことをするかわかりませんから。夢で遊べるのは、無垢な心を持つ子供の特権なのでしょう。
 さて、今夜も焼酎飲んで酔っぱらって、ワケのわからぬ夢でも見ることにしよう。

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