◆◇◆ ラーメン今昔物語 〜大日本停電計画〜 ◆◇◆
現在、僕の店はどの店も従業員不足です。これはラーメン屋に限らず、飲食業全体が抱える共通の悩みのようです。その原因は、まずは少子化にあります。加えて昨年あたりから団塊世代が定年期を迎え、それにともなう企業の新規雇用の間口の広がりが、いわゆる3K職場といわれる業界へのわずかな応募者をも吸い取っているという現状もあります。しかしながら、この国に少子化という問題さえなければ、どんな業界にも人はまんべんなく流れ込み、国の産業は維持し発展するものです。夫婦が最低二人以上の子供を作らなければ、やがて近い将来、就労人口(働ける人たち)と非就労人口(働けない人たち)が逆転して国は完全に破綻し、日本は消滅してしまいます。この問題に対して国もいろいろな対応策を模索しているようですが、それは出産や育児の費用等の経済的支援が中心のようです。はたして夫婦が積極的な子作りをしないのは経済的な問題だけなのでしょうか? であるなら、決して経済的に豊かとはいえない途上国の夫婦が子沢山というのは?
やはり最大の問題点は我が国の「夫婦の価値観」でしょう。「子育てよりも仕事が好き」「夫婦だけでもっと楽しみたい」「子供より自分の人生」最近このような価値観の若い夫婦が増え、その価値観がそのまま少子化という現象に繋がっているのではないでしょうか。ではなぜ多くの日本の若い夫婦がこのような価値観を持つようになってしまったのか。その元凶はやはり戦後の教育にあるようです。占領軍が残して行った“アメリカ的自由(快楽)主義”と、革新系の人たちから刷り込まれた“日本的伝統の排除と個人の権利意識”、そのるつぼの中で育った子供たちが長じて、摩訶不思議な価値観を持つ夫婦が増えてきたのかもしれません。もう、ウカウカしていられません。政府の子育て支援もどれほどの効果があるのかわかりませんし、特効薬にはなり得ないでしょう。そこで僕は考えました。市井のラーメンおやじのアイデアですが、題して「大日本停電計画」。
以前アメリカで本当に起きたことですが、一九六五年、ニューヨークが大停電に見舞われました。するとその九ヵ月後のある日、ほとんど同時にニューヨーク中で赤ちゃんの産声が上がったのです。調べると、市の出生率が三割も増加したそうです。もうおわかりですね、テレビもラジオも使えない暗い部屋で、あかりは一本のローソクだけ。ゆれる小さな炎越しにいるのは見慣れたはずのカーチャンだけど、今夜は何やら色っぽく見える…。トーチャンのハゲ頭だって闇にとけ込んでいるから若くてダンディ…。出会った頃を思い出した夫婦はやがて自然に…。そう、停電は回春剤でもあるのです。
コレです。我が日本も国を挙げてコレをやるのです。夫婦の価値観もへったくれもありません。具体的計画内容として、まず何月何日は年に一度の全国大停電の日と定めます。ただし医療や救急などの国民の命や健康に関わる機関だけを例外とし、それ以外は会社も商店もすべてその日は十八時で休業。同時に戒厳令が布かれ、国民は一切外出禁止。十九時、子供および高齢者は就寝。二十時、全国の送電が停止。あかりは一部屋一本と決められたロウソクのみ。パソコンもゲームも禁止(というか出来ない)。風呂はOK(これは効果的で実用的)。そう、このたった一晩の国家行事でイキナリ国民の出生率が三割アップは間違いなし。やがて新生児が生まれ、その子の受精が全国大停電の日であることが証明されたら、政府から「百発百中で賞」として“フィラメントが切れた電球を抱いた赤ちゃん”の銀メダルが授与される、それが双子なら金メダル。三つ子以上なら、天皇陛下より菊のご紋入り純金製ほ乳びんが下賜。
どうです、これぞ少子化問題起死回生の特効薬とは思いませんか? ときに停電は国家を救うのです。
〜 次号へ続く 〜
(2007年11月)
|